前記事で、原発のベネフィット(利益)とリスクについて、大型ジェット旅客機と比較した書き方をしました。
もうちょっと、リスク部分のイメージが近いと思われる「公害」として考察してみました。
日本では、戦後の昭和20年~40年にかけての高度経済成長期に、産業の発展とともに重大な公害問題を経験してきました。4大公害病として記憶される、水俣病(熊本、新潟)、イタイイタイ病、四日市ぜんそく、その他にもカネミ油症もありました。さらに、古くは足尾鉱毒事件も、日本の公害問題の先駆けとして記憶されている所です。
いずれも、原因となる有害物質が地域汚染を引き起こし、それを知らずに一定期間摂取した人たちが発病したというものです。これらの公害は、発病(問題発生)後に原因物質と発病の仕組みが解明され、その後も被害者の救済にも長い期間がかかりました。また、一部では現在でも裁判が続き、問題の完全解決に至っていないものもあります。
原発事故では、有害物質は放射性物質で広範囲に汚染が起こり、かつ通常では人間が感知しえないものです。そして、長期間にわたり強い放射線を出し続け人体が被ばくした場合、様々な放射線由来の障害(病気)を引き起こすことになります。この被ばくの影響については、ロシアのチェルノブイリ原発の事故後の状況でも明らかです。
一方、過去の公害病では、原因物質の除去と汚染防止の手段が図られ、またそれらを生み出した産業においても技術革新等で有害物質の排出防止が図られました。結果、今でもこれらの産業で生産された製品を、私たちは有効にかつ便利に利用することが出来、一面では現在の生活に必要不可欠なものとなっているものもあるかと思います。これらの公害問題が議論されたときでも、当然有害物質を排出した企業や監督者の公的機関の責任は追及されてきましたが、その産業すべてを未来永劫止めてしまうと言う話は、表だって語られていなかったはずです。実際、現在でも公害の発生責任を負いつつも、事業を継続している企業もあります。
事故起こした福島第一原発以外の原発では、今は一時的に稼働を停止しし、様々な観点から福島第一原発の事故の再発防止の検討を行っている段階です。一方では、即刻原発は再稼働させることなく廃棄すべきという主張も大きく取り上げられています。汚染の影響範囲の規模や時代背景の違いがあるにせよ、過去の公害も原発による放射性物質の問題も、似たようなモノと思えて仕方ありません。
四日市ぜんそくでは、石油化学工場の排煙が問題となりました。今では、汚染物質を除去する技術が確立され公害は改善されましたが、それまでの間も工場は稼働し続けました。また、排煙の問題は四日市のみならず、全国の石油化学工場で共通の問題だったはずですが、公害防止のために全国の工場が一斉に長期間停止したり廃業したと言う話は聞きません。しかし、原発ではそれを主張する人が多くいます。この違いは何でしょうか??
原発が生み出すもの(目的)は、電力です。その電力を生み出す手段は、原発以外にもいくつもあります。
産業レベルとして一定の出力を安定的に生み出す手段として考えた場合、現時点で実用的な手段は、水力、火力、地熱が考えられます。ついで、最近話題となっている風力、太陽光、燃料電池でしょうか。
それぞれの方式について、私の印象を書いてみます。
火力は、以前は発電量の主役でしたが、原発稼働後は燃料コストと排出ガス(温暖化効果)の問題で稼働を縮小する傾向にありました。一部のガスタービン方式の発電は、技術革新で低コスト高効率となり、拡大する可能性がありますが、原発の規模には及びません。昨日の記事にも書きましたが、今は原発が停止した分の不足電力を補うために、稼働可能な火力発電所がフル操業状態です。即ち、化石燃料をたくさん消費し温暖化ガスもたくさん排出しています。
水力は、概ねダムを用いた水の位置エネルギーから電力を生み出す方式です。それゆえ、ダムに適した立地条件が限られ、かつ最も大規模な土木工事が必要となります。発電プロセスにおいて温暖化ガスは発生しませんが、異常気象等による水不足となると発電が十分できなくなります。また、大規模な土木工事が自然破壊に繋がるとか、工事にかかる利権の不透明さが報じられたりしたことで、ダム建設も忌避される傾向が続いていました。何よりも、発電を開始出来るまでの工事期間も長くなり、原発が即時停止となった場合には代替えにはなりません。
地熱発電は、水力以上に立地条件が厳しく、現在の日本では大規模な発電所の設置は事実上不可能な状態と聞いています。
風力発電は、何よりも供給力が不安定で大容量発電が難しいと言う欠点につきます。風が吹かなければ発電できません。また、台風のような強風や突風でも発電が出来ずに停止せざるを得ません。加えて、風車が発する風切り音が新たな健康被害の要因となる問題があるようです。
太陽光発電は、メガソーラー発電計画として注目されています。こちらも、装置の製造時は別にして、発電のプロセスでは温暖化ガス等は一切発生しません。ただし、日本のような気候変化が激しい場所では、発電効率はやや悪くなってしまいます。加えて、昨日の記事にも書きましたが、すべての生命活動の源とも言っていい太陽光を、発電のために搾取せざるをえないと言う事実があります。この点で、地球の自然に対して一見優しそうでありながら、実は一番厳しい容赦ない発電方法なのかもしれません。
さて、原発の即時停止、廃棄を主張している方々は、現実に今ある電力不足への対応方法は何がベストだと考えているのでしょう?
「無駄、無駄以上の電力消費の徹底抑制 (例えば、24時以降早朝迄の間のテレビ放送の中止?、家庭用電化製品の利用制限?、深夜営業店舗の営業時間短縮?)」でしょうか? 実効性を高めるには、現在の生活で享受している電気による利便性を、ある程度捨てなければいけないと思います。
「代替発電方法の拡大」でしょうか?まずは短期的には既存設備のフル活用出来るのは火力発電所のみです。そうなると、放射能汚染よりももっと厄介な温暖化ガスを大量に排出し続けることを容認することになりますね。長期的には、水力発電は太陽光発電の拡大もあるでしょうが、この場合は新たな自然環境破壊を容認するとも言えます。(よもや、対応方法は為政者が考えることでわしゃ知らん!なんて無責任な方はいないと思いますが)
と言うことで、私個人はすべての原発を即時停止(廃棄)と言う主張には、現状で賛同できかねます。無論、事故や被災していない原発全てを、今のまま動かすことに全く抵抗が無いわけではありません。言ってみれば「走りながら考えて、改善を図る」と言うのがベストだと思っています。災害への耐久力が比較的高いと思われる原発は、再稼働し運転を継続。その間、電力消費の抑制に努め、代替発電方法の効率化と安定化の実現のために技術革新に励むと言うことが、今のベストかなと考えてます。
まあ、マスコミの世論調査結果を見ると、私のような考えはどうやら少数派みたいですが。
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